とんとんとん、


 とんとんとん、と聞こえたから、ベランダの脇にまとめられたカーテンを、めくり、めくり、めくってみると、ああこんなところに隙間があったんだ。本棚と壁の間には足の幅もないけれど、身体をほそおく伸ばし、壁にぴったり貼り付いて、そんなところに挟まっていたのだった。
 ちいちゃんはそうやっていつも最後。かくれんぼの名人だ。
 ちいちゃん出といで、こうさんこうさん。みんなのところにもどろう。
 わたしが言うと、ちいちゃんは前を向いたまま手を挙げた。そして爪先立ちで、1,2,1,2、奥の方へと進んでいく。
 ちいちゃんちいちゃん、出られなくなるよ、こっちだよ。
 カーテンの端をぎゅっと握り声をかけると、ちいちゃんは鼻がすれないようにゆっくりこちらを向いた。それから、かよちゃんもいいよ、と言った。
 途端に本棚の裏が秘密の通路になって、でこぼこと連なる棚と壁の間を伸びていくのだった。ちいちゃんが進む先には、知らないカーテンがあるのだった。
 わたしはのどのあたりが疼き声を出せなくなった。身体を横にし手を壁に貼り付けて、その通路に入った。木のささくれがスカートを少しずつ引っ張って、ちりちり音を立てる。指先に埃が付いていくのがわかる。爪先立ちになって1,2,1,2とちいちゃんの後を追う。
 ちいちゃんは先にあるカーテンをめくらずにわたしを待ってくれた。通路の最後はふっくらと広がっていて、ちょうどしゃがめるくらいの幅があった。わたしがたどり着くと、ちいちゃんはうなずいて向こうを向き、カーテンをめくり、めくり、めくり、そうしてあ、まぶしい、と思ったら窓があったのだった。
 白っぽい景色の中に、みんなが待ちきれなくて遊んでいるのが見えた。わたしは突然、小さくなったのか、薄っぺらになったのか、それともぽおんと身体から離れて浮いているのか、そんなような気持ちになった。ちいちゃんのTシャツを握る指だけがわたしをつなぎとめる。賑やかな音がガラスを通り、乾いた粉になって秘密の通路の中を漂っていく。光の筋の端で色をなくしたりまた現れたりしていたけれど、やがてどこかへ落ち着いて、そうやって積もっていくのだった。

2012.03.13




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